して、こっちのお手々を出しちゃ駄目《だめ》よ」と母さん狐は言いきかせました。
「どうして?」と坊やの狐はききかえしました。
「人間はね、相手が狐だと解ると、手袋を売ってくれないんだよ、それどころか、掴《つか》まえて檻《おり》の中へ入れちゃうんだよ、人間ってほんとに恐《こわ》いものなんだよ」
「ふーん」
「決して、こっちの手を出しちゃいけないよ、こっちの方、ほら人間の手の方をさしだすんだよ」と言って、母さんの狐は、持って来た二つの白銅貨《はくどうか》を、人間の手の方へ握らせてやりました。
 子供の狐は、町の灯《ひ》を目あてに、雪あかりの野原をよちよちやって行きました。始めのうちは一つきりだった灯が二つになり三つになり、はては十にもふえました。狐の子供はそれを見て、灯には、星と同じように、赤いのや黄いのや青いのがあるんだなと思いました。やがて町にはいりましたが通りの家々はもうみんな戸を閉《し》めてしまって、高い窓から暖かそうな光が、道の雪の上に落ちているばかりでした。
 けれど表の看板の上には大てい小さな電燈がともっていましたので、狐の子は、それを見ながら、帽子屋を探して行きました。自転車
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