み[#「のみ」に傍点]を持って、大理石を切り、それをだんだんつみかさねていきました。巨男《おおおとこ》は、仕事をしているときでもあの白鳥を背《せ》にとまらしていました。白鳥もおとなしくとまっていました。巨男《おおおとこ》は、つちをふりながらちょうど人間にいうように白鳥にいいました。
「お前は、いったいどうしたら涙《なみだ》を流すのか? お前はいつ涙《なみだ》を流すのか? お前は涙《なみだ》を流さなくては、いつまでたっても、お姫《ひめ》さまにはなれないのだよ、私はお前がかわいそうだ。だから早く美しいもとのお姫様《ひめさま》にかえってくれ。」
 そんなときには、白鳥は首をたれて巨男《おおおとこ》の話を聞いていましたが、涙《なみだ》を流したことはありませんでした。
 巨男《おおおとこ》の仕事は、どんどん進んでいきました。夜ふけでも、つみ上げられた塔《とう》の上から、つちの音が都《みやこ》の空にひびきました。都の人びとは、ねる前に、きっと窓《まど》をあけて巨男《おおおとこ》の働いている塔《とう》の上をみました。そこには、星と同じような灯《ひ》の光が、またたいていたんです。
 三月もたつと、巨男
前へ 次へ
全11ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング