ちっと、あの清水《しみず》が道《みち》に近《ちか》いとええだがのオ。」
と、とうとう海蔵《かいぞう》さんが言《い》いました。
「まったくだて。」
と、利助《りすけ》さんが答《こた》えました。

  二
 
 海蔵《かいぞう》さんが人力曳《じんりきひ》きのたまり場《ば》へ来《く》ると、井戸掘《いどほ》りの新五郎《しんごろう》さんがいました。人力曳《じんりきひ》きのたまり場《ば》といっても、村《むら》の街道《かいどう》にそった駄菓子屋《だがしや》のことでありました。そこで井戸掘《いどほ》りの新五郎《しんごろう》さんは、油菓子《あぶらがし》をかじりながら、つまらぬ話《はなし》を大《おお》きな声《こえ》でしていました。井戸《いど》の底《そこ》から、外《そと》にいる人《ひと》にむかって話《はなし》をするために、井戸新《いどしん》さんの声《こえ》が大《おお》きくなってしまったのであります。
「井戸《いど》ってもなア、いったいいくらくらいで掘《ほ》れるもんかイ、井戸新《いどしん》さ。」
と、海蔵《かいぞう》さんは、じぶんも駄菓子箱《だがしばこ》から油菓子《あぶらがし》を一|本《ぽん》つまみだしながら
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