の牛《うし》でありました。
「わしの牛《うし》だがのイ。」
「てめえの牛《うし》? これを見《み》よ。椿《つばき》の葉《は》をみんな喰《く》ってすっかり坊主《ぼうず》にしてしまったに。」
二人《ふたり》が、牛《うし》をつないだ椿《つばき》の木《き》を見《み》ると、それは自転車《じてんしゃ》をもった地主《じぬし》がいったとおりでありました。若《わか》い椿《つばき》の、柔《やわ》らかい葉《は》はすっかりむしりとられて、みすぼらしい杖《つえ》のようなものが立《た》っていただけでした。
利助《りすけ》さんは、とんだことになったと思《おも》って、顔《かお》をまっかにしながら、あわてて木《き》から綱《つな》をときました。そして申《もう》しわけに、牛《うし》の首《くび》ったまを、手綱《たづな》でぴしりと打《う》ちました。
しかし、そんなことぐらいでは、地主《じぬし》はゆるしてくれませんでした。地主《じぬし》は大人《おとな》の利助《りすけ》さんを、まるで子供《こども》を叱《しか》るように、さんざん叱《しか》りとばしました。そして自転車《じてんしゃ》のサドルをパンパン叩《たた》きながら、こういいま
前へ
次へ
全30ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング