海から歸る日
新美南吉

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)せんだん[#「せんだん」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)つぶら/\となる
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             1

 五年間に通過して來た道、それは今考へたつてわからない。たゞわかるものは今の心だ。五年の最後に到達した心だ。人の心ではない。自分の心だ。

             2

 雲はビルデイングになつてくれない。風鈴草はいくら振つても鳴つてくれない。木馬は乘つたつて走らない。

             3

 私の生活は私の生活。私の心は私の心。あなたの生活もあなたの心もあなたののだ。いかに暴逆なネロでも、私の生活を窺ふ事は出來ない。私の生活は矢張り私の生活。

             4

 初夏のうらゝかな日の午後、せんだん[#「せんだん」に傍点]の枝を見てゐると、私は存在してゐるだらうかと思つた。
 そしてせんだん[#「せんだん」に傍点]の實がつぶら/\となる頃に、私は一つの木の實を拾つた
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