まったと、あらためて痛切に感じるのであった。
 そして、四人はしばらくないていたが、太郎左衛門は、ひろった貝がらで、足もとの砂の上にすじをひいているばかりで、なきださないのであった。
 ないていない人のそばでないているのは、ぐあいのわるいものである。久助君はなきながら、ちょいちょい太郎左衛門の方を見て、太郎左衛門もいっしょになけばよいのにと、思った。こいつはなんというへんな、わけのわからんやつだろうと、またいつもの感を深くしたのである。
 日がまったくぼっして、世界は青くなった。最初に、久助君のなみだがきれたので、なきやんだ。すると、加市君、兵太郎君、徳一君という、なきだしとはぎゃくの順で、せみが鳴きやむようになきやんでいった。
 そのとき、太郎左衛門がこういった。
「ぼくの親せきが大野にあるからね、そこへいこう。そして電車で送ってもらおう」
 どんな小さな希望にでもすがりつきたいときだったので、みんなはすぐ立ちあがった。しかし、それをいったのが、ほかならぬ太郎左衛門であることを思うと、みんなはまた、力がぬけるのをおぼえたのである。もしこれが、だれかほかのものがいったのなら、どんなにみんなは勇気をふるいおこしたことだろう。
 やがて、大野の町にはいったとき、みんなは不安でたまらなくなったので、
「ほんとけ、太郎左衛門?」
と、なんどもきいた。そのたびに太郎左衛門は、ほんとうだよ、とこたえるのであったが、いくらそんなこたえを得ても、みんなは信じることはできなかった。
 久助君も、太郎左衛門をもはや信じなかった。――こいつは、わけのわからぬやつなのだ、みんなとはものの考えかたがまるでちがう、別の人間なのだと、思いながら、みんなにたちまじっている太郎左衛門の横顔を、するどく見ていた。すると、太郎左衛門の顔は、そっくり、きつねのように見えるのであった。
 町の中央あたりまでくると、太郎左衛門は、
「ううんと、ここだったけな」
などとひとりごとしながら、あっちの細道をのぞいたり、こっちの路地《ろじ》にはいったりした。それを見ると、ほかの四人は、ますますたよりなさを感じはじめた。また、太郎左衛門のうそなのだ。いよいよ絶望なのだ。
 しかし、まもなく太郎左衛門は、ひとつの路地からかけだしてくると、
「見つかったから、こいよ、こいよ」
と、みんなを招いたのである。
 みんなの顔に、
前へ 次へ
全16ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング