。|角兵ヱ《かくべえ》は吹《ふ》くのをやめました。
「それで、きさまは何《なに》を見《み》て来《き》たのか。」
「川《かわ》についてどんどん行《い》きましたら、花菖蒲《はなしょうぶ》を庭《にわ》いちめんに咲《さ》かせた小《ちい》さい家《いえ》がありました。」
「うん、それから?」
「その家《いえ》の軒下《のきした》に、頭《あたま》の毛《け》も眉毛《まゆげ》もあごひげもまっしろな爺《じい》さんがいました。」
「うん、その爺《じい》さんが、小判《こばん》のはいった壺《つぼ》でも縁《えん》の下《した》に隠《かく》していそうな様子《ようす》だったか。」
「そのお爺《じい》さんが竹笛《たけぶえ》を吹《ふ》いておりました。ちょっとした、つまらない竹笛《たけぶえ》だが、とてもええ音《ね》がしておりました。あんな、不思議《ふしぎ》に美《うつく》しい音《ね》ははじめてききました。おれがききとれていたら、爺《じい》さんはにこにこしながら、三つ長《なが》い曲《きょく》をきかしてくれました。おれは、お礼《れい》に、とんぼがえりを七へん、つづけざまにやって見《み》せました。」
「やれやれだ。それから?」
「おれ
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