ぶんが盗人《ぬすびと》であることをつい忘《わす》れてしまって、この鍋《なべ》、二十|文《もん》でなおしましょう、とそこのおかみさんにいってしまったのです。」
「何《なん》というまぬけだ。じぶんのしょうばいは盗人《ぬすびと》だということをしっかり肚《はら》にいれておらんから、そんなことだ。」
と、かしらはかしららしく、弟子《でし》に教《おし》えました。そして、
「もういっぺん、村《むら》にもぐりこんで、しっかり見《み》なおして来《こ》い。」
と命《めい》じました。|釜右ヱ門《かまえもん》は、穴《あな》のあいた鍋《なべ》をぶらんぶらんとふりながら、また村《むら》にはいっていきました。
こんどは海老之丞《えびのじょう》がもどって来《き》ました。
「かしら、ここの村《むら》はこりゃだめですね。」
と海老之丞《えびのじょう》は力《ちから》なくいいました。
「どうして。」
「どの倉《くら》にも、錠《じょう》らしい錠《じょう》は、ついておりません。子供《こども》でもねじきれそうな錠《じょう》が、ついておるだけです。あれじゃ、こっちのしょうばいにゃなりません。」
「こっちのしょうばいというのは何《な
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