》は、はじめて盗人《ぬすびと》の親方《おやかた》というものになってしまった。だが、親方《おやかた》になって見《み》ると、これはなかなかいいもんだわい。仕事《しごと》は弟子《でし》どもがして来《き》てくれるから、こうして寝《ね》ころんで待《ま》っておればいいわけである。」
とかしらは、することがないので、そんなつまらないひとりごとをいってみたりしていました。
 やがて弟子《でし》の|釜右ヱ門《かまえもん》が戻《もど》って来《き》ました。
「おかしら、おかしら。」
 かしらは、ぴょこんとあざみの花《はな》のそばから体《からだ》を起《お》こしました。
「えいくそッ、びっくりした。おかしらなどと呼《よ》ぶんじゃねえ、魚《さかな》の頭《あたま》のように聞《き》こえるじゃねえか。ただかしらといえ。」
 盗人《ぬすびと》になりたての弟子《でし》は、
「まことに相《あい》すみません。」
とあやまりました。
「どうだ、村《むら》の中《なか》の様子《ようす》は。」
とかしらがききました。
「へえ、すばらしいですよ、かしら。ありました、ありました。」
「何《なに》が。」
「大《おお》きい家《いえ》がありまし
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