なぞに、ばかされてたまるかい。」
「きつねですか、あれは。」
「…………」
「犬みたいだったがな。そのしょうこに、正観《しょうかん》はそばへよっても、ちっとも、こわくはなかったがなあ。」
常念御坊《じょうねんごぼう》は、はしをおいて、考えこんでいました。あんどんのあかりが、そのくるくる頭へ赤くさしています。
しばらくして、常念御坊《じょうねんごぼう》は、
「正観《しょうかん》。」
と、すこし、きまりわるそうにいいました。
「そのちょうちんを、つけよ。」
「はい。」
「わしは、ちょっといって、さがしてくるでな。おまえは、本堂《ほんどう》のえんの下へ、わらをどっさり、入れといてくれ。」
「なにをさがしに?」
「あの犬を、つれてくるんだ。」
「きつねでしょう、あれは。」
「かわいそうに。犬なら、のら犬だ。食いものも、ろくに食わんとみえて、ひどくやせこけていた。はるばる、となり村から、わしについてきたのだから、あったかくして、とめてやろうよ。」
それに、わしの落としただんごまで、ちゃんと、くわえてきてくれたんだもの。おれがわるいよと、これだけは心のなかでいって、常念御坊《じょうねんごぼう
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