ほうきで追っぱらえというのに。」
「ちきしょう。にげんか。しっ、しっ、しっ。」
と、正観《しょうかん》はほうきで追いまくりました。
「ほうい、ちきしょう。こらっ。」
と正観《しょうかん》は、そっちこっち追いかけて、とうとう外へにがしてしまいました。
「にげたか。」
「にげました。」
「正観《しょうかん》。」
「はい。」
「なんでおまえは、今ごろ鐘楼《しょうろう》なんぞへ、あがっていたのだ。」
「さびしかったから。」
「鐘楼《しょうろう》へあがってれば、さびしくなくなるのか。」
「鐘《かね》をゲンコツでたたくと、おん、おん、おんと、和尚《おしょう》さんの声みたいな音がするんです。」
「なにをいいおる。」
 和尚《おしょう》さんは、ころもをぬいで、ろばたで、おぜんにすわって、ざぶざぶと、お茶づけをながしこみはじめました。正観《しょうかん》は、おみやげのだんごを、ひろげました。
「和尚《おしょう》さん。あの犬は、どこからついてきたのです。」
「となり村から、しつっこく、あとをつけてきたのだよ。」
「どうして。」
「どうしてだか、知らないよ。」
「ばかしゃぁ、しませんでした?」
「おれがきつね
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