じめました。話声《はなしごえ》も近くなりました。葬列は墓地へはいって来ました。人々が通ったあとには、ひがん花が、ふみおられていました。
ごんはのびあがって見ました。兵十が、白いかみしもをつけて、位牌《いはい》をささげています。いつもは、赤いさつま芋《いも》みたいな元気のいい顔が、きょうは何だかしおれていました。
「ははん、死んだのは兵十のおっ母《かあ》だ」
ごんはそう思いながら、頭をひっこめました。
その晩、ごんは、穴の中で考えました。
「兵十のおっ母は、床《とこ》についていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。それで兵十がはりきり[#「はりきり」に傍点]網をもち出したんだ。ところが、わしがいたずらをして、うなぎをとって来てしまった。だから兵十は、おっ母にうなぎを食べさせることができなかった。そのままおっ母は、死んじゃったにちがいない。ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいとおもいながら、死んだんだろう。ちょッ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」
三
兵十が、赤い井戸のところで、麦をといでいました。
兵十は今まで、おっ母と二人《ふたり》きりで、貧し
前へ
次へ
全12ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング