はみんなを鐘楼《しゅろう》の下《した》に一|列《れつ》励行《れいこう》させた。そして一人《ひとり》ずつ石段《いしだん》をあがってつくのだが、一人《ひとり》のつく数《かず》は三つにきめられた。お菓子《かし》の配給《はいきゅう》のときのことをおもい出《だ》して、僕《ぼく》はおかしかった。だが、ごんごろ鐘《がね》を最後《さいご》に三つずつ鳴《な》らさせてもらうこの「配給《はいきゅう》」は、お菓子《かし》の配給《はいきゅう》以上《いじょう》にみんなに満足《まんぞく》をあたえた。
 最後《さいご》に吉彦《よしひこ》さんがじぶんで、大《おお》きく大《おお》きく撞木《しゅもく》を振《ふ》って、がオオんん、とついた。わんわんわん、と長《なが》く余韻《よいん》がつづいた。すると吉彦《よしひこ》さんが、
「西《にし》の谷《たに》も東《ひがし》の谷《たに》も、北《きた》の谷《たに》も南《みなみ》の谷《たに》も鳴《な》るぞや。ほれ、あそこの村《むら》も、あそこの村《むら》も、鳴《な》るぞや。」
と、謎《なぞ》のようなことをいった。
「ほんとだ、ほんとだ。」
と、樽屋《たるや》の木之助《きのすけ》爺《じい》さんと、ほか二、三|人《にん》の老人《ろうじん》があいづちをうった。
 ぼくは何《なん》のことやらわけが分《わ》からなかったので、あとでお父《とう》さんにきいて見《み》たら、お父《とう》さんはこう説明《せつめい》してくれた。
「ごんごろ鐘《がね》ができたのは、わたしのお祖父《じい》さんの若《わか》かったじぶんで、わたしもまだ生《う》まれていなかった昔《むかし》のことだが、その頃《ころ》は村《むら》の人達《ひとたち》はみなお金《かね》というものを少《すこ》ししか持《も》っていなかったので、村中《むらじゅう》がその僅《わず》かずつのお金《かね》を出《だ》しあっても、まだ鐘《かね》を一つつくるには足《た》りなかった。そこで西《にし》や東《ひがし》や南《みなみ》や北《きた》の谷《たに》に住《す》んでいる人《ひと》たちやら、もっと遠《とお》くのあっちこっちの村《むら》まで合力《ごうりょく》してもらいにいったんだそうだ。合力《ごうりょく》というのは、たすけてもらうことなのさ。そうしてようやくできあがった鐘《かね》だから、四方《しほう》の谷《たに》の人《ひと》や向《む》こうの村々《むらむら》の人《ひと》の心《こころ》もこもっているわけだ。だからごんごろ鐘《がね》をつくと、その谷《たに》や村《むら》の音《おと》もまじっているように聞《き》こえるのだよ。」
 ごんごろ鐘《がね》をおろすのは、庭師《にわし》の安《やす》さんが、大《おお》きい庭石《にわいし》を動《うご》かすときに使《つか》う丸太《まるた》や滑車《せみ》を使《つか》ってやった。若《わか》い人達《ひとたち》が手伝《てつだ》った。馴《な》れないことだからだいぶん時間《じかん》がかかった。
 ごんごろ鐘《がね》はひとまず鐘楼《しゅろう》の下《した》に新筵《にいむしろ》をしいて、そこにおろされた。いつも下《した》からばかり見《み》ていた鐘《かね》が、こうして横《よこ》から見《み》られるようになると、何《なに》か別《べつ》のもののような変《へん》な感《かん》じがした。緑青《ろくしょう》がいっぱいついている上《うえ》に、頂《いただき》の方《ほう》には埃《ほこり》がつもっているので、かなりきたなかった。庵主《あんじゅ》さんと、よく尼寺《あまでら》の世話《せわ》をするお竹《たけ》婆《ばあ》さんとが、縄《なわ》をまるめてごしごしと洗《あら》った。
 すると今《いま》まではっきりしなかった鐘《かね》の銘《めい》も、だいぶんはっきりして来《き》た。吉彦《よしひこ》さんがちょっと読《よ》んで見《み》て、
「こりゃ、お経《きょう》だな。」
といった。それからまた、
「安永《あんえい》何《なん》とか書《か》いてあるぜ。こりゃ安永年間《あんえいねんかん》にできたもんだ。」
といった。すると、どもりの勘太《かんた》爺《じい》さんが、
「そ、そうだ。う、う、おれの親父《おやじ》が、う、う、生《う》まれたとしにできた、げな。お、お、親父《おやじ》は安永《あんえい》の、う、う、うまれだ。」
と、かみつくようにいった。
 紋次郎君《もんじろうくん》とこの婆《ばあ》さんが、
「三河《みかわ》のごんごろという鐘師《かねし》がつくったと書《か》いてねえかン。」
ときいた。
「そんなことは書《か》いてねえ、助九郎《すけくろう》という名《な》が書《か》いてある。」
と、吉彦《よしひこ》さんが答《こた》えると、婆《ばあ》さんは何《なに》かぶつくさいってひっこんだ。
 和太郎《わたろう》さんが牛車《ぎゅうしゃ》をひいて来《き》たとき、きゅうに庵主《あんじゅ》さ
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