ません。
 とうとう、小さい太郎はしびれをきらして、
「安さん、安さん。」
 と、小さい声でよびました。安雄さんにだけ聞こえればよかったのです。
 しかし、こんなせまいところでは、そういうわけにはいきません。おじさんが聞きとがめました。おじさんは、いつもは子どもにむだぐちなんかきいてくれるいい人ですが、きょうは、なにかほかのことではらをたてていたとみえて、太いまゆねをぴくぴくと動かしながら、
「うちの安雄はな、もう、きょうから、一人まえのおとなになったでな、子どもとは遊ばんでな、子どもは子どもと遊ぶがええぞや。」
 と、つっぱなすようにいいました。
 すると安雄さんが、小さい太郎の方を見て、しかたがないように、かすかにわらいました。そしてまたすぐ、じぶんの手先に熱心な目をむけました。
 虫がえだから落ちるように、力なく、小さい太郎はこうしからはなれました。
 そして、ぶらぶらと歩いていきました。

         五

 小さい太郎の胸《むね》に、深い悲しみがわきあがりました。
 安雄さんはもう、小さい太郎のそばに帰ってはこないのです。もういっしょに遊ぶことはないのです。おなかがいた
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