、きかしてくれました。
「ちょっとわけがあってな、三河《みかわ》の親類へきのう、あずけただがな。」
「ふゥん。」
 と、小さい太郎は、聞こえるか聞こえないくらいに、鼻の中でいいました。なんということでしょう。なかのよかった恭一君が、海のむこうの三河《みかわ》のある村に、もらわれてしまったというのです。
「そいで、もう、もどってきやしん?」
 と、せきこんで小さい太郎はききました。
「そや、また、いつかくるだらあずに。」
「いつ?」
「ぼんや正月にゃ、くるだらあずにな。」
「ほんとだねおばさん、ぼんと正月にゃもどってくるね。」
 小さい太郎は、望みをうしないませんでした。ぼんにはまた、恭一《きょういち》君と遊べるのです。正月にも。

         四

 かぶと虫を持った小さい太郎は、こんどは細い坂道をのぼって、大きい通りの方へ出ていきました。
 車大工さんの家は、大きい通りにそってありました。そこの家の安雄《やすお》さんは、もう青年学校にいっているような大きい人です。けれど、いつも、小さい太郎たちのよい友だちでした。じんとりをするときでも、かくれんぼをするときでも、いっしょに遊ぶの
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