《じゅず》をつくっていた。ランプの青やかな光のもとでは、人々のこうした生活も、物語か幻燈《げんとう》の世界でのように美しくなつかしく見えた。
巳之助は今までなんども、「文明開化で世の中がひらけた」ということをきいていたが、今はじめて文明開化ということがわかったような気がした。
歩いているうちに、巳之助は、様々なランプをたくさん吊《つる》してある店のまえに来た。これはランプを売っている店にちがいない。
巳之助はしばらくその店のまえで十五銭を握りしめながらためらっていたが、やがて決心してつかつかとはいっていった。
「ああいうものを売っとくれや」
と巳之助はランプをゆびさしていった。まだランプという言葉を知らなかったのである。
店の人は、巳之助がゆびさした大きい吊《つり》ランプをはずして来たが、それは十五銭では買えなかった。
「負けとくれや」
と巳之助はいった。
「そうは負からん」
と店の人は答えた。
「卸値《おろしね》で売っとくれや」
巳之助は村の雑貨屋へ、作った草鞋《わらじ》を買ってもらいによく行ったので、物には卸値と小売値《こうりね》があって、卸値は安いということを知っていた
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