は進んだ。電気の時世になった」
 三番目のランプを割ったとき、巳之助はなぜか涙がうかんで来て、もうランプに狙《ねら》いを定めることができなかった。
 こうして巳之助は今までのしょうばいをやめた。それから町に出て、新しいしょうばいをはじめた。本屋になったのである。
      *
「巳之助さんは今でもまだ本屋をしている。もっとも今じゃだいぶ年とったので、息子《むすこ》が店はやっているがね」
と東一君のおじいさんは話をむすんで、冷《さ》めたお茶をすすった。巳之助さんというのは東一君のおじいさんのことなので、東一君はまじまじとおじいさんの顔を見た。いつの間にか東一君はおじいさんのまえに坐りなおして、おじいさんのひざに手をおいたりしていたのである。
「そいじゃ、残りの四十七のランプはどうした?」
と東一君はきいた。
「知らん。次の日、旅の人が見つけて持ってったかも知れない」
「そいじゃ、家にはもう一つもランプなしになっちゃった?」
「うん、ひとつもなし。この台ランプだけが残っていた」
とおじいさんは、ひるま東一君が持出したランプを見ていった。
「損しちゃったね。四十七も誰かに持ってかれちゃって
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