明かるくなった。あかりをしたって寄って来た魚が、水の中にきらりきらりとナイフのように光った。
「わしの、しょうばいのやめ方はこれだ」
と巳之助は一人でいった。しかし立去りかねて、ながいあいだ両手を垂《た》れたままランプの鈴なりになった木を見つめていた。
ランプ、ランプ、なつかしいランプ。ながの年月なじんで来たランプ。
「わしの、しょうばいのやめ方はこれだ」
それから巳之助は池のこちら側の往還《おうかん》に来た。まだランプは、向こう側の岸の上にみなともっていた。五十いくつがみなともっていた。そして水の上にも五十いくつの、さかさまのランプがともっていた。立ちどまって巳之助は、そこでもながく見つめていた。
ランプ、ランプ、なつかしいランプ。
やがて巳之助はかがんで、足もとから石ころを一つ拾った。そして、いちばん大きくともっているランプに狙《ねら》いをさだめて、力いっぱい投げた。パリーンと音がして、大きい火がひとつ消えた。
「お前たちの時世《じせい》はすぎた。世の中は進んだ」
と巳之助はいった。そしてまた一つ石ころを拾った。二番目に大きかったランプが、パリーンと鳴って消えた。
「世の中
前へ
次へ
全27ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング