ことは忘れてしまった。
日ぐれに東一君は家へ帰って来た。奥の居間《いま》のすみに、あのランプがおいてあった。しかし、ランプのことを何かいうと、またおじいさんにがみがみいわれるかも知れないので、黙っていた。
夕御飯のあとの退屈な時間が来た。東一君はたんすにもたれて、ひき出しのかん[#「かん」に傍点]をカタンカタンといわせていたり、店に出てひげを生《は》やした農学校の先生が『大根《だいこん》栽培の理論と実際』というような、むつかしい名前の本を番頭に注文するところを、じっと見ていたりした。
そういうことにも飽くと、また奥の居間にもどって来て、おじいさんがいないのを見すまして、ランプのそばへにじりより、そのほやをはずしてみたり、五銭|白銅貨《はくどうか》ほどのねじ[#「ねじ」に傍点]をまわして、ランプの芯《しん》を出したりひっこめたりしていた。
すこしいっしょうけんめいになっていじくっていると、またおじいさんにみつかってしまった。けれどこんどはおじいさんは叱らなかった。ねえやにお茶をいいつけておいて、すっぽんと煙管筒《きせるづつ》をぬきながら、こういった。
「東坊、このランプはな、おじ
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