売りにいった。
巳之助はお金も儲《もう》かったが、それとは別に、このしょうばいがたのしかった。今まで暗かった家に、だんだん巳之助の売ったランプがともってゆくのである。暗い家に、巳之助は文明開化の明かるい火を一つ一つともしてゆくような気がした。
巳之助はもう青年になっていた。それまでは自分の家とてはなく、区長さんのところの軒のかたむいた納屋《なや》に住ませてもらっていたのだが、小金がたまったので、自分の家もつくった。すると世話してくれる人があったのでお嫁《よめ》さんももらった。
或《あ》るとき、よその村でランプの宣伝をしておって、「ランプの下なら畳《たたみ》の上に新聞をおいて読むことが出来るのイ」と区長さんに以前きいていたことをいうと、お客さんの一人が「ほんとかン?」とききかえしたので、嘘《うそ》のきらいな巳之助は、自分でためして見る気になり、区長さんのところから古新聞をもらって来て、ランプの下にひろげた。
やはり区長さんのいわれたことはほんとうであった。新聞のこまかい字がランプの光で一つ一つはっきり見えた。「わしは嘘をいってしょうばいをしたことにはならない」と巳之助はひとりごと
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