《じゅず》をつくっていた。ランプの青やかな光のもとでは、人々のこうした生活も、物語か幻燈《げんとう》の世界でのように美しくなつかしく見えた。
 巳之助は今までなんども、「文明開化で世の中がひらけた」ということをきいていたが、今はじめて文明開化ということがわかったような気がした。
 歩いているうちに、巳之助は、様々なランプをたくさん吊《つる》してある店のまえに来た。これはランプを売っている店にちがいない。
 巳之助はしばらくその店のまえで十五銭を握りしめながらためらっていたが、やがて決心してつかつかとはいっていった。
「ああいうものを売っとくれや」
と巳之助はランプをゆびさしていった。まだランプという言葉を知らなかったのである。
 店の人は、巳之助がゆびさした大きい吊《つり》ランプをはずして来たが、それは十五銭では買えなかった。
「負けとくれや」
と巳之助はいった。
「そうは負からん」
と店の人は答えた。
「卸値《おろしね》で売っとくれや」
 巳之助は村の雑貨屋へ、作った草鞋《わらじ》を買ってもらいによく行ったので、物には卸値と小売値《こうりね》があって、卸値は安いということを知っていた。たとえば、村の雑貨屋は、巳之助の作った瓢箪型《ひょうたんがた》の草鞋を卸値の一銭五|厘《りん》で買いとって、人力曳《じんりきひき》たちに小売値の二銭五厘で売っていたのである。
 ランプ屋の主人は、見も知らぬどこかの小僧がそんなことをいったので、びっくりしてまじまじと巳之助の顔を見た。そしていった。
「卸値で売れって、そりゃ相手がランプを売る家なら卸値で売ってあげてもいいが、一人一人のお客に卸値で売るわけにはいかんな」
「ランプ屋なら卸値で売ってくれるだのイ?」
「ああ」
「そんなら、おれ、ランプ屋だ。卸値で売ってくれ」
 店の人はランプを持ったまま笑い出した。
「おめえがランプ屋? はッはッはッはッ」
「ほんとうだよ、おッつあん。おれ、ほんとうにこれからランプ屋になるんだ。な、だから頼むに、今日《きょう》は一つだけンど卸値で売ってくれや。こんど来るときゃ、たくさん、いっぺんに買うで」
 店の人ははじめ笑っていたが、巳之助の真剣なようすに動かされて、いろいろ巳之助の身の上をきいたうえ、
「よし、そんなら卸値でこいつを売ってやろう。ほんとは卸値でもこのランプは十五銭じゃ売れないけど、おめ
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