立てて何にするのだろう、と思いながら少し先にゆくと、また道ばたに同じような高い柱が立っていて、それには雀《すずめ》が腕木にとまって鳴いていた。
この奇妙な高い柱は五十|米《メートル》ぐらい間をおいては、道のわきに立っていた。
巳之助はついに、ひなたでうどんを乾《ほ》している人にきいてみた。すると、うどんやは「電気とやらいうもんが今度ひけるだげな。そいでもう、ランプはいらんようになるだげな」と答えた。
巳之助にはよくのみこめなかった。電気のことなどまるで知らなかったからだ。ランプの代りになるものらしいのだが、そうとすれば、電気というものはあかり[#「あかり」に傍点]にちがいあるまい。あかり[#「あかり」に傍点]なら、家の中にともせばいいわけで、何もあんなとてつもない柱を道のくろに何本もおっ立てることはないじゃないかと、巳之助は思ったのである。
それから一月《ひとつき》ほどたって、巳之助がまた大野へ行くと、この間立てられた道のはたの太い柱には、黒い綱のようなものが数本わたされてあった。黒い綱は、柱の腕木にのっているだるまさんの頭を一まきして次の柱へわたされ、そこでまただるまさんの頭を一まきして次の柱にわたされ、こうしてどこまでもつづいていた。
注意してよく見ると、ところどころの柱から黒い綱が二本ずつだるまさんの頭のところで別れて、家の軒端《のきば》につながれているのであった。
「ヘへえ、電気とやらいうもんはあかり[#「あかり」に傍点]がともるもんかと思ったら、これはまるで綱じゃねえか。雀や燕《つばめ》のええ休み場というもんよ」
と巳之助が一人であざわらいながら、知合いの甘酒屋にはいってゆくと、いつも土間《どま》のまん中の飯台の上に吊してあった大きなランプが、横の壁の辺に取りかたづけられて、あとにはそのランプをずっと小さくしたような、石油入れのついていない、変なかっこうのランプが、丈夫《じょうぶ》そうな綱で天井からぶらさげられてあった。
「何だやい、変なものを吊したじゃねえか。あのランプはどこか悪くでもなったかやい」
と巳之助はきいた。すると甘酒屋が、
「ありゃ、こんどひけた電気というもんだ。火事の心配がのうて、明かるうて、マッチはいらぬし、なかなか便利なもんだ」
と答えた。
「ヘッ、へんてこれん[#「へんてこれん」に傍点]なものをぶらさげたもんよ。これじゃ甘酒
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