うた時計
新美南吉
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)もう霜《しも》がとけて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)れん[#「れん」に傍点]ていうんだ
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二月のある日、野中のさびしい道を、十二、三の少年と、皮のかばんをかかえた三十四、五の男の人とが、同じ方へ歩いていった。
風がすこしもないあたたかい日で、もう霜《しも》がとけて道はぬれていた。
かれ草にかげをおとして遊んでいるからすが、ふたりのすがたにおどろいて、土手をむこうにこえるとき、黒い背中《せなか》が、きらりと日の光を反射するのであった。
「坊《ぼう》、ひとりでどこへいくんだ」
男の人が少年に話しかけた。
少年はポケットにつっこんでいた手を、そのまま二、三ど、前後にゆすり、人なつこいえみをうかべた。
「町だよ」
これはへんにはずかしがったり、いやに人をおそれたりしない、すなおな子どもだなと、男の人は思ったようだった。
そこでふたりは、話しはじめた。
「坊、なんて名だ」
「れん[#「れん」に傍点]ていうんだ」
「れん[#「れん」に傍点]? れん平《ぺい》か」
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