薬屋へ、よく遊びにいくのか」
「うん、よくいくよ、ぼくのうちの親類だもん。おじさんも知ってるの?」
「うん……ちょっと、おじさんも知っている」
「あの薬屋のおじさんはね、そのうた時計をとてもだいじにしていてね、ぼくたち子どもに、なかなかさわらせてくれないよ……あれッ、またとまっちゃった。もう一ぺん鳴らしてもいい?」
「きりがないじゃないか」
「もう一ぺんきり。ね、おじさんいいだろ、ね、ね。あ、鳴りだしちゃった」
「こいつ、じぶんで鳴らしといて、あんなこといってやがる。ずるいぞォ」
「ぼく、知らないよ。手がちょっとさわったら、鳴りだしたんだもん」
「あんなこといってやがる。そいで坊は、その薬屋へよくいくのか」
「うん、じき近くだからよくいくよ。ぼく、そのおじさんとなかよしなんだ」
「ふうん」
「でも、なッかなか、うた時計を鳴らしてくれないんだ。うた時計が鳴るとね、おじさんは、さびしい顔をするよ」
「どうして?」
「おじさんはね、うた時計をきくとね、どういうわけか周作《しゅうさく》さんのことを思い出すんだって」
「えッ……ふうん」
「周作って、おじさんの子どもなんだよ。不良少年になってね、学校がすむと、どっかへいっちゃったって。もうずいぶんまえのことだよ」
「その薬屋のおじさんはね、その周作……とかいうむすこのことを、なんとかいっているかい?」
「ばかなやつだって、いってるよ」
「そうかい。そうだなあ、ばかだな、そんなやつは。あれ、もうとまったな。坊、もう一どだけ、鳴らしてもいいよ」
「ほんと?……ああ、いい音だなあ。ぼくの妹のアキコがね、とっても、うた時計がすきでね、死ぬまえに、もう一ぺんあれをきかしてくれって、ないてぐずったのでね、薬屋のおじさんとこから借りてきて、きかしてやったよ」
「……死んじゃったのかい?」
「うん、おととしのお祭のまえにね。やぶの中のおじいさんのそばにお墓《はか》があるよ。川原《かわら》から、おとうさんが、このくらいのまるい石をひろってきて立ててある、それがアキコのお墓さ、まだ子どもだもんね。そいでね、命日《めいにち》に、ぼくがまた薬屋からうた時計を借りてきて、やぶの中で鳴らして、アキコにきかしてやったよ。やぶの中で鳴らすと、すずしいような声だよ」
「うん……」
 ふたりは大きな池のはたに出た。むこう岸の近くに、黒く二、三ばの水鳥がうかんでい
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