へんなことをいう小僧《こぞう》だな」
 男の人はわらいだした。でも、こういう少年がいるものだ。近づきになると、相手のからだにさわったり、ポケットに手を入れたりしないと、承知ができぬという、ふうがわりな、人なつこい少年が。
「入れたっていいよ」
 少年は、男の人のがいとうのポケットに、手を入れた。
「なんだ、ちっともあったかくないね」
「はっは、そうかい」
「ぼくたちの先生のポケットは、もっとぬくいよ。朝、ぼくたちは学校へいくとき、かわりばんこに先生のポケットに手を入れていくんだ。木山先生というのさ」
「そうかい」
「おじさんのポケット、なんだか、かたい冷たいものがはいってるね。これなに?」
「なんだと思う」
「かねでできてるね……大きいね……なにか、ねじ[#「ねじ」に傍点]みたいなもんがついてるね」
 するとふいに、男の人のポケットから美しい音楽が流れだしたので、ふたりはびっくりした。男の人はあわてて、ポケットを上からおさえた。しかし、音楽はとまらなかった。それから男の人は、あたりを見まわして、少年のほかにはだれも人がいないことを知ると、ほっとしたようすであった。天国で小鳥がうたってでもいるような美しい音楽は、まだつづいていた。
「おじさん、わかった、これ時計《とけい》だろう」
「うん、オルゴールってやつさ。おまえがねじ[#「ねじ」に傍点]をさわったもんだから、うたいだしたんだよ」
「ぼく、この音楽だいすきさ」
「そうかい、おまえもこの音楽知ってるのかい」
「うん。おじさん、これ、ポケットから出してもいい?」
「出さなくてもいいよ」
 すると、音楽は終わってしまった。
「おじさん、もう一ぺん鳴らしてもいい?」
「うん、だアれもきいてやしないだろうな」
「どうして、おじさん、そんなにきょろきょろしてるの?」
「だって、だれかきいていたら、おかしく思うだろう。おとながこんな子どものおもちゃを鳴らしていては」
「そうね」
 そこで、また男の人のポケットがうたいはじめた。
 ふたりはしばらくその音をききながら、だまって歩いた。
「おじさん、こんなものを、いつも持って歩いてるの」
「うん、おかしいかい」
「おかしいなァ」
「どうして」
「ぼくがよく遊びにいく、薬屋のおじさんのうちにも、うた時計があるけどね、だいじにして、店のちんれつだなの中に入れてあるよ」
「なんだ、坊、あの
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