たのまんで、やめておいてくよや。おとっつぁんに自転車でひと走りいってきてもらや、すむことだで。」
「うふん。」
と、松吉は鼻をならしました。しかし、帰りはもらったおだちんで、電車に乗ることができると思って、わずかに心をなぐさめました。
松吉と杉作は、ぼうしをかむらないで家を出ました。ぼうしをかむって町へいくと、町の子どもが徽章《きしょう》を見て、松吉、杉作がいなかからきたことを、さとるにちがいありません。それが、ふたりはいやだったのです。
ふたりが八幡《はちまん》さまの石鳥居の前を通りかかると、そこで、こまを持って、ひとりでしょぼんとしていたけん坊《ぼう》が、
「杉、どこへいくで、遊ぼかよ。」
と、声をかけました。
杉作は、
「おれたち、町へいくんだもん。」
と、いいました。そしてふたりは、新しい幸福にむかって進んでいく人のように、わき目もふらないですぎていきました。
けん坊《ぼう》は、はねとばされた子ねこのような顔をして、ふたりを見送っていました。
村を出てしまったころに、松吉は、じぶんの右手がいたんでいることに、気がつきました。見ると、重箱《じゅうばこ》が右手に持た
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