いさんの耳に、毛のはえとることくれえ、毎日見て、よく知ってけつかるくせに。」
と、しかりとばしました。そんなこともありました。
克巳はからうす[#「からうす」に傍点]をめずらしがって、米をつかせてくれとせがみました。しかし、二十ばかり足をふむと、もういやになって、おりてしまいましたので、あとは、松吉と杉作がしなければなりませんでした。
あしたは克巳が、町へ帰るという日の昼さがりには、三人でたらい[#「たらい」に傍点]をかついで裏《うら》山の絹池《きぬいけ》にいきました。絹池は、大きいというほどの池ではありませんが、底知れず深いのと、水がすんでいてつめたいのと、村から遠いのとで、村の子どもたちも、遊びにいかない池でした。三人は、その池をたらいにすがって、南から北に横ぎろうというのでした。
三人は南の堤防《ていぼう》にたどりついてみますと、東、北、西の三方を山でかこまれた池は、それらの山と、まっ白な雲をうかべているばかりで、あたりには、人のけはいがまるでありません。三人はもう、すこしぶきみに感じました。しかし、せっかくここまでたらい[#「たらい」に傍点]をかついできて、水にはいりもせず帰っては、あまり、いくじのない話ではありませんか。三人は勇気《ゆうき》を出して、はだかになりました。そして、土手《どて》の下のよし[#「よし」に傍点]の中へ、おそるおそる、たらい[#「たらい」に傍点]をおろしてやりました。
たらい[#「たらい」に傍点]が、バチャンといいました。その音が、あたりの山一面に聞こえたろうと思われるほど、大きな音に聞こえました。たらい[#「たらい」に傍点]のところから、波の輪がひろがっていきました。見ていると、池のいちばんむこうのはしまでひろがっていって、そこの小松のかげが、ゆらりゆらりとゆれました。三人はすこし、元気が出てきました。
「はいるぞ。」
と、松吉が、うしろを見ていいました。
「うん。」
と、克巳《かつみ》がうなずきました。
三人のはだかん坊《ぼう》は、ずぼりずぼりと水の中にすべりこみ、たらい[#「たらい」に傍点]のふちにつかまりました。そして、うふふふふ、と、おたがいに顔を見合わせてわらいました。おかしいのでわらったのか、あまりつめたかったのでわらったのか、じぶんたちにもよくわかりませんでした。
もう、こうなっては、じっとしているわ
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