結婚問題を噺《はな》したのだね、相手は彼女に所有財産の放抛《ほうき》を勧め決然二人が先んじて結婚して仕舞おうと提議した、墓地を出て淋しい街を撰《よっ》て行くと、そうら道具屋があっただろう、彼所《あそこ》で相手は必要なものを注文し移転の日かその翌日……即ち今日だネ配達するように命じて、出かけにあの標札を見たのだ、それには町名が音羽町《おとわちょう》と記入してあった、それが潜在意識となってあの脅迫状の署名に不知不識《しらずしらず》に音羽組なんて茶番をやったのだよ、
それから相手の気がついたのは、非常手段で娘を奪略しても隠家《かくれが》に困ることだ、そこで案内社へ随分高い金を掴ませて到頭迅雷的に彼家《あのいえ》を買ってしまったものだ、弟と同じ家に置くのは困るからね、これで案内社へ入った理由《わけ》が判ったね次に、学校へ行ったのは、日記を調べて覚えた、善太郎という弟の学友の名前だ、名簿を見ると、『中岡|進二郎《しんじろう》、保証人実兄中岡|徹雄《てつお》』と載《のっ》てあったのだ、校長の話では某県下の大地主で両親《ふたおや》はなく文学士の兄が弟を監督して居るとのことで、もうこれで疑いの余地が
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