流転
山下利三郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)蕗子《ふきこ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)先月|窒扶斯《ちぶす》で

[#]:入力者注 主に外字の注記や傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った
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「蕗子《ふきこ》が殺されたのは、その晩の僅かな時間のあいだでした……。
 私が訣別《わかれ》の詞《ことば》を書いた手紙をもって戸外へ出ると、そこは彼女の家の裏まで田圃《たんぼ》つづきです。彼女の居間に灯のついていることが、幾度か窓の下へ近よってゆくことを逡巡《しりごみ》させましたが、ようやく思切って忍足に障子の際までゆくと、幸いその破れから内部を覗くことができました。
 母に死別《しにわか》れて間のない、傷みやすい蕗子の心を波立たせたくない。能《でき》ることなら何も知らせずに、このまま土地を離れてしまいたい。この手紙だって、自分が旅立ってしまうまでは、見てくれない方が好いのだと思っていたのですが、都合の好いことには
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