を発見した。
 封を切ってみると枯淡な達筆で墨の色も鮮かに書かれてあるのが、却って小村には読辛かったが漸《ようや》く辿り読むとこうであった。

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 関西へは久し振にての旅行、大阪在住の旧友方に逗留中、かの夜痛飲の果酔余の興にかられ友人の作業服を着用し、街上に迷出候処、あまりの寒気にさすがの酔もさめはて難渋《なんじゅう》の折柄、幸いにも貴下の御呼止にあずかり、御心尽しの御|饗応《きょうおう》に蘇生の想いを致し候。
 お別れの後、その事帰宿いたし友人夫婦より余りの酔興と叱言頂戴その翌日要件相済帰東仕候えど、取後《とりまぎ》れ御礼遅延の儀平に御寛容賜りたく、併せて気後れより素性相偽り申上候罪お詫申上候。
 その砌《みぎ》り即興的にお話申上げし創作「蕗子事件について」本日××誌上に御力作御発表、敬服再読仕り候、御恩恵の金五円はテーマ譲渡料として正に頂戴可仕候。呵々。
 尚お、粗品ながら別送の小包御笑納相成度く、向後益々御健康祈上候。敬具。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]洋鵝生

 小村は慌しく机の上を見廻した。何だか油紙で包装した小包がおいてあった、けれども彼はそれよりさきに、封筒を取上げて今更のように顔を赤くした、同時に眼の下を冷たいものが、たらたらと流れた。
「垂水洋鵝……ァ、そうだったのか?」
 かの放浪者こそ小村が常に尊敬している、文壇の大先輩だったのだった。
[#地付き](一九二七年八月号)



底本:「「探偵趣味」傑作選 幻の探偵雑誌2」光文社文庫、光文社
   2000(平成12)年4月20日初版1刷発行
初出:「探偵趣味」
   1927(昭和2)年8月号
入力:網迫、土屋隆
校正:noriko saito
2005年9月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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