せんとする時、その諸費を払《はら》わんとせしに院吏《いんり》いう、君の諸入費《しょにゅうひ》は悉皆《しっかい》福沢氏より払《はら》い渡《わた》されたれば、もはやその事に及ばずとなり。
後《のち》また数旬を経《へ》て、先生予を箱根《はこね》に伴《ともな》い霊泉《れいせん》に浴《よく》して痾《やまい》を養わしめんとの事にて、すなわち先生|一家《いっか》子女《しじょ》と共に老妻《ろうさい》諸共《もろとも》、湯本《ゆもと》の福住《ふくずみ》に寓《ぐう》すること凡《およそ》三旬、先生に陪《ばい》して或は古墳《こふん》旧刹《きゅうさつ》を探《さぐ》り、また山を攀《よ》じ川を渉《わた》り、世の塵紛《じんふん》を忘れて神洞《しんどう》仙窟《せんくつ》に遊ぶがごとく、大《おおい》に体力《たいりょく》の重量を増《ま》すに至れり。嗚呼《ああ》、先生|何《なん》ぞ予を愛《あい》するの深くして切《せつ》なるや。予何の果報《かほう》ありて、かかる先生の厚遇《こうぐう》を辱《かたじけの》うして老境《ろうきょう》を慰《なぐさ》めたりや。要するに、予の半生《はんせい》将死《しょうし》の気力を蘇《そ》し、やや快《こころ
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