合に外国の事情《じじょう》にも通じたる人なれども、平生《へいぜい》の言《こと》に西洋の技術《ぎじゅつ》はすべて日本に優《まさ》るといえども医術《いじゅつ》だけは漢方《かんぽう》に及ばず、ただ洋法《ようほう》に取るべきものは熱病《ねつびょう》の治療法《ちりょうほう》のみなりとて、彼《か》の浅田宗伯《あさだそうはく》を信ずること深《ふか》かりしという。すなわちその思想《しそう》は純然たる古流《こりゅう》にして、三河武士《みかわぶし》一片の精神《せいしん》、ただ徳川|累世《るいせい》の恩義《おんぎ》に報《むく》ゆるの外|他志《たし》あることなし。
 小栗の人物《じんぶつ》は右のごとしとして、さて当時の外国人は日本国をいかに見たるやというに、そもそも彼《か》の米国の使節《しせつ》ペルリが渡来《とらい》して開国《かいこく》を促《うなが》したる最初《さいしょ》の目的は、単に薪水《しんすい》食料《しょくりょう》を求むるの便宜《べんぎ》を得んとするに過ぎざりしは、その要求《ようきゅう》の個条《かじょう》を見るも明白《めいはく》にして、その後タオンセント・ハリスが全権《ぜんけん》を帯びて来るに及び、始め
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