定めたりなど云々《うんぬん》するも、果《はた》して当人《とうにん》の心事《しんじ》を穿《うが》ち得たるや否《いな》や。
もしも勝氏が当時において、真実《しんじつ》外国干渉の患《うれい》あるを恐れてかかる処置《しょち》に及びたりとすれば、独《ひと》り自《みず》から架空《かくう》の想像《そうぞう》を逞《たくまし》うしてこれがために無益《むえき》の挙動《きょどう》を演じたるものというの外なけれども、勝氏は決してかかる迂濶《うかつ》の人物にあらず。思うに当時|人心《じんしん》激昂《げきこう》の際、敵軍を城下に引受《ひきう》けながら一戦にも及ばず、徳川三百年の政府を穏《おだやか》に解散《かいさん》せんとするは武士道の変則《へんそく》古今の珍事《ちんじ》にして、これを断行《だんこう》するには非常の勇気《ゆうき》を要すると共に、人心《じんしん》を籠絡《ろうらく》してその激昂《げきこう》を鎮撫《ちんぶ》するに足《た》るの口実《こうじつ》なかるべからず。これすなわち勝氏が特に外交の危機《きき》云々《うんぬん》を絶叫《ぜっきょう》して、その声を大にし以て人の視聴《しちょう》を聳動《しょうどう》せんと勉《
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