たる挙動《きょどう》ならずやとの口調《くちょう》を以て厳《きび》しく談《だん》じ込《こ》まれたるが故《ゆえ》に、政府においては一言《いちごん》もなく、ロセツの申出はついに行《おこな》われざりしかども、彼が日本人に信ぜられたるその信用《しんよう》を利用して利を謀《はか》るに抜目《ぬけめ》なかりしは凡《およ》そこの類《たぐい》なり。
 単に公使のみならず仏国の訳官《やくかん》にメルメデ・カションという者あり。本来|宣教師《せんきょうし》にして久しく函館《はこだて》に在《あ》り、ほぼ日本語にも通《つう》じたるを以て仏公使館の訳官となりたるが、これまた政府に近《ちか》づきて利したること尠《すく》なからず。その一例を申せば、幕府にて下《しも》ノ関《せき》償金《しょうきん》の一部分を払うに際し、かねて貯《たくわ》うるところの文銭《ぶんせん》(一文銅銭)二十何万円を売り金《きん》に換《か》えんとするに、文銭は銅質《どうしつ》善良《ぜんりょう》なるを以てその実価《じっか》の高きにかかわらず、政府より売出すにはやはり法定《ほうてい》の価格に由《よ》るの外なくしてみすみす大損を招かざるを得ざるより、その処
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