ゅうし》その節を変ぜざりし人にして、福沢先生と相識《あいし》れり。つねに勝氏の行為《こうい》に不平を懐《いだ》き、先生と会談の語次《ごじ》、ほとんどその事に及ばざることなかりしという。この篇の稿|成《な》るや、先生一本を写し、これを懐《ふところ》にして翁を本所《ほんじょ》の宅に訪《おとな》いしに、翁は老病の余《よ》、視力も衰《おとろ》え物を視《み》るにすこぶる困難の様子なりしかば、先生はかくかくの趣意《しゅい》にて一篇の文を草《そう》したるが、当分は世に公《おおやけ》にせざる考にて人に示さず、これを示すはただ貴君と木村芥舟《きむらかいしゅう》翁とのみとて、その大意を語られしに、翁は非常に喜び、善《よ》くも書かれたり、ゆるゆる熟読《じゅくどく》したきにつき暫時《ざんじ》拝借《はいしゃく》を請《こ》うとありければ、その稿本《こうほん》を翁の許《もと》に留《とど》めて帰られしという。木村氏といい栗本氏といい、固《もと》よりこれを他人に示すがごとき人に非ず。而《しこう》して先生は二人の外《ほか》何人《なんびと》にも示さざれば決して他に漏《も》るるはずなきに、往々これを伝写《でんしゃ》して本論は
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