とこ》の間《ま》と、はんたいがわと思われるところに、ふっくらとしたざぶとんの上にすわらせられました。法師はきちんとすわり、持って来たびわをひきよせると、耳もとで老女《ろうじょ》らしい声がしました。
「平家《へいけ》の物語《ものがたり》――壇《だん》ノ浦《うら》を弾《だん》じてください。」

     三

 法師はしずかにびわ[#「びわ」に傍点]をとりあげました。大広間のうちは、水をうったようにしん[#「しん」に傍点]となりました。はじめは小川のせせらぎのように、かすかにかすかに鳴《な》りだし、ついで谷川《たにがわ》の岩にくだける水音のようにひびきだして、法師のあわれにも、ほがらかな声が、もれはじめました。その声は一だんごとに力を増《ま》し、泣くがように、むせぶがようにひびきわたりました。その声につれて弾《だん》ずるびわの音は、また縦横《じゅうおう》につき進む軍船《ぐんせん》の音、矢《や》のとびかうひびき、甲胄《かっちゅう》の音、つるぎの鳴《な》り、軍勢《ぐんぜい》のわめき声、大浪《おおなみ》のうなり、壇《だん》ノ浦《うら》合戦《かっせん》そのままのありさまをあらわしました。法師はもは
前へ 次へ
全19ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 千秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング