ずす音がして、大きなとびらはしずかに開かれました。武士は法師の手をとって、中へはいりました。しっとりとした庭を、しばらくいくと、またおごそかな、りっぱな大げんかんと思われる前に、たちどまりました。武士はそこで、また高らかにいいました。
「ただいま、びわ法師《ほうし》、法一をつれてまいりました。」
大げんかんのうちでは、ふすまをあける音、大戸をあける音がして、やがて、やさしい女たちの話し声が聞えてきました。その声で察《さっ》すると、その女たちは、この高貴《こうき》なおやしきの、召使《めしつか》いであることがわかりました。その召使いの女のひとりが、法師の手をやわらかにとると、こちらへと、大げんかんのうちへ案内《あんない》しました。それから、すべるようにみがきこんだ、長いろうかをいくまがりかして、かぞえきれないほどの、部屋《へや》べやの前をすぎて、やがて大広間《おおひろま》へ案内されました。そこには、かなりおおぜいの人びとが息《いき》をひそめて、いならんでいることが、そのけはいでわかりました。やわらかな衣《きぬ》ずれの音が、森《もり》の木のすれあうように聞えました。
法師は、大広間の床《
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