がびわをひきだし、その歌をうたいはじめると、なんともいえないあわれさ、悲《かな》しさがひびきわたり、鬼《おに》でさえも泣《な》かずにはいられないほどでありました。
この法師は、だれひとり身よりもなく、また、ひどく貧乏《びんぼう》でした。いかに、びわの名人《めいじん》とはいえ、そのころは、まだそれでくらしをたてるわけにはいきませんでした。すると、平家の墓《はか》のそばにあるあみだ寺《でら》の坊《ぼう》さんが、それをきいて、たいへん同情《どうじょう》をし、またじぶんはびわも好《す》きだったので、この法師をお寺へひきとり、くらしには、なに不自由《ふじゆう》のないようにしてやりました。法師はひじょうによろこびました。そして、しずかな夜などは、とくいの壇《だん》ノ浦《うら》合戦《かっせん》を歌《うた》っては坊さんをなぐさめていました。
それは春《はる》の宵《よい》でありました。坊さんは法事《ほうじ》へいってるすでした。法師はじぶんの寝間《ねま》の前の、えんがわへでて、好《す》きなびわをひきながら、坊さんの帰りを待っていました。が、坊さんは夜がふけてもなかなか帰ってきませんでした。法師は見えな
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