見物を陥穽《おとしあな》にかけた上、膏血《こうけつ》を絞りとるもので、最も不埒な悪徳と云うべきだ」
「活動写真は何よりも容易《やす》くて人気のある見せ物だから、活動を見る程の人の大部分は一等戦争やなんかに係りがあるわけだわね」
「うん、だから、そうなると最早や、芸術的価値なぞは問題ではなくて、その製作者こそ本当に見物の敵に他ならなくなるのだ」
「あたし、よく判らないけど、とにかく戦争だけを売物にする映画なんて、その根性が考えられないわ、それだのに、あとからあとから、幾つでも戦争映画ばかりが世の中に出て来るんだもの、そして、到頭、カラコラム映画なんかまでが、真似して『時勢は移る』とか何とかベカベカな偽物をこしらえるんだから助らねえな」
「『時世は移る』と云う自然の道理が解らないのだよ。地球がどんなに規則正しく、決してスピードなんかかけやしないけど、きつきつとして廻っているか、本当に気がついていないのだね」
[#地付き](一九二八年七月号)



底本:「「探偵趣味」傑作選 幻の探偵雑誌2」ミステリー文学資料館・編、光文社文庫、光文社
   2000(平成12)年4月20日初版1刷発行
初出:「探偵趣味」
   1928(昭和3)年7月号
入力:網迫、土屋隆
校正:noriko saito
2005年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ワタナベ オン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング