いるんだもの、お話にならない」
「馬鹿だなあ」
「役者が、馬鹿なのよ」
「じゃあ、なんだって、そんな馬鹿なものになったんだい?」
「それぁ、仕方がないわ。それじゃ、あんたは、また何だって戦《いくさ》になんか行ったの?」
「おとなりのマメリューク・スルタンの国でパルチザン共がストライキを起こして暴れるので鎮めに行ったのさ」
「よけいなことじゃなくって?」
「そんなこと云うと叱られるよ。パルチザンは山賊も同然だから、もしあんまり増長してそのストライキが蔓延でもしようものなら、あの近所にはセシル・ロードだの山上権左衛門《やまがみごんざえもん》なんて世界中の金満家の会社や山などがあるし、飛んだ迷惑を受けないとも限らぬと云うので、征伐する必要があったんだ」
「金満家が迷惑すれば、あんた方まで戦に行かなければならないの?」
「知らないよ。大将か提督《ていとく》かに聞いておくれ」
 オング君が、そう鰾膠《にべ》もなく云って、お菓子を喰べてコーヒーを飲むのを、娘は少しばかり慍《いきどお》ったような顔で眺めていましたが、やがて、ふと思いついたように、反りかえった鼻のさきに皺を寄せて薄笑いを浮かべました。
「あんたグレンブルク原作と称する『時は過ぎ行く』見た? カラコラム映画――そんなのあるかな」
「いや、兵隊は活動写真なぞ見ている暇はない。それが、どうかしたのかい?」
「ううん、ただその活動はね、お客へ向って戦争へ行け行けって、やたらに進軍ラッパを吹いたり太鼓鳴らしたりしているの。そしてね、戦場ってものは、みんなが考えてるような悲惨な苦しいものではなくて、案外平和で楽でしかも時々は小唄まじりのローマンスだってあると云うことを説明しているの」
「はてね?」
「それでね、その癖、何のために戦争をするんだか、正義のためにとは云うんだけど、何が正義なんだかちっとも判らないし、第一敵が何処《どこ》の国やら皆目《かいもく》見当がつかないんだから嫌になっちゃうんだよ」
「そいつは、愉快だね。僕だって、今度の戦争ならば全くそうに違いないと思ったぜ」
「そう。そう云えば、あんたから送って来た戦地のスナップショット、どれもこれも、とてもお天気がいいね。それに塹壕《ざんごう》の中には柔かそうな草が生えているし、原っぱはまるで芝生のように平かだし、砲煙弾雨だって全く芝焼位しかないし、あたい兵隊が敵に鉄砲向け
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