扉は語らず
(又は二直線の延長に就て)
小舟勝二

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)抱《いだ》いた

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当夜|此《こ》の

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(例)[#ここから3字下げ]
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「事件は今から六年前、九月三十日、午後八時から九時までの間に、いわゆる東京六大百貨店の一、S百貨店に突発した、小いさな出来事だ。大百貨店に於ける一装飾工の惨死! このことに興味を抱《いだ》いた君が、これからS百貨店へ行って、六年以上勤続の店員に訊ねることは無駄だ。恐らく、誰もそんな事件に就いては初耳だ、と答えるだろうから――
 然し、当夜|此《こ》の惨事に立会ったものは、店内関係者としては装飾部主任とその部下、宿直主任とその部下、警備係員若干、すべてで二十人はいるのだがね。彼らは相互に警戒して口を緘《かん》し、吹聴《ふいちょう》本能の禁欲につとめた。実に彼らこそ訓練の行届いた模範的な百貨店員と云うべきだ!
 ところが、此処《ここ》にわらうべき一事がある。彼ら二十余名の模範店員た
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