うしろ》で――。
されば其《その》光の顫音《トレモロ》は悲しく、
氏の銅色《どうしよく》の額《ひたひ》に反射した。――恰《さなが》ら
青の鶯《うぐひす》が落日《いりひ》の檣《ますと》の森で鳴くやうに……
雲の彼方《あなた》の蘆薈《ろくわい》花咲く故郷《ふるさと》へ、故郷《ふるさと》へ、ねえ、故郷《ふるさと》へ……。

氏は卓《たあぶる》の一角から罪色《つみいろ》紅《くれなゐ》の 〔Curac,ao〕《きゆらさお》 を取つて
薄玻璃《うすばり》の高脚杯《かうきやくはい》に垂《たら》した……重く……緩《ゆるや》かに……。
その懐しい錯心《でりいる》のやさしい呼吸《いき》づかひの中《うち》に、
赤、紺青、土耳古珠色《とるこだまいろ》、「黄なつぽい」|Sentiment 色《さんちまんいろ》、
そのあまり日向《ひなた》つぽ過ぎる新しい(やや似合はない)
背広の文《あや》の音楽に首を埋《うづ》めて
(かの邪宗、その寺の門前に梟首《さらさ》れた怪僧の額《ひたひ》のやうに)
烈《はげ》しい異国趣味《えきぞちすむ》に飢ゑ爛《ただ》れた氏の表情は、
新《あらた》に南洋から帰つた商船の事務員の如く、
ひた
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