フも亦美であらうか。わたくしに在つては心悄然たる時には美を感じない。わたくしが庭、小径の草木を見て心を動かし、それを本の表紙の図案に為立てるのにも、わたくしの感知しない、未来に栄える実用を伴ふものが、向ふかこつちかどつちかのうちに有るからだと思つてゐる。この忙しい今の時の幾日かをかかる戯れに費したことは、かうとでもいひわけしないと心がおさまらない。それにしても八月、九月、十月はなほ多少の閑があつた。十一月に入つて寸刻の余裕もない。「文学」から原稿を求められ、十一月のいまの日になつて更に催促を受けた。それでいつか書きかけて置いたこの原稿を、今夜いそいで書き足したが、時計を見ると既に午前一時を過ぎてゐる。あすはまた沢山為事がある。朝起きるのがつらいからと思つて、ここで筆を擱くことにした。(昭和十七年葭月既朔)
底本:「日本の名随筆 別巻87・装丁」作品社
1998(平成10)年5月25日発行
底本の親本:「木下杢太郎全集 第一八巻」岩波書店
1983(昭和58)年2月発行
入力:加藤恭子
校正:菅野朋子
2000年10月30日公開
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