常丸 母様今日のお会式《ゑしき》は面白うおぢやつたのう。私《わし》やあのやうに面白うおぢやつたのは、生れてから今日が始めてぢや。私《わし》やまだ見ておぢやりたかつたのに。私《わし》や家《うち》へ帰るはいやぢや。
千代 まあ、此子としたことが――そのやうな事いふものは、あの恐ろしい犬めが拉《さら》つてゆきますぞや。家ではばば様が待つておぢやらう程に、早う参らうわいな。
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母なる人の友、菊枝、上手より来りてこの母子《おやこ》に摩《す》れちがひ、
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菊枝 はれ、待ちやれいのう。お前は千代さまぢやおぢやらぬかいな。
千代 あれ、これは菊枝さまさうな。異《い》な所でお遇ひました。
菊枝 お前は何処《どこ》からのお帰りぢや。
千代 今日は最勝寺さまの御会式ぢやさかいに、死んだ娘と、この子の父御《ててご》の供養《くやう》しておぢやつた。郷《さと》の母様《かかさま》が強《きつ》う止めるゆゑ、竟《つい》遅うなつて、只今帰るところぢや。してお前は何処からぢやえ。
菊枝 さて其事ぢや。妾《わらは》はな、近ごろ大《いか
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