やうむへんせいぐわんど》、煩悩無辺誓願断、法門無尽誓願知、無上菩薩誓願証。
所化等 南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。(沙門等|悉《ことごと》く上手より去。)
白萩 源さま。――あれ源さまとしたことが、もう声は聞こえぬさうな。まをし源さま。源さまいのう。
長順 (立ち上らむとする如くにして、また倒れ伏す。)おお、この不可思議にこがるるわ、不可思議にこがるるわ。(声次第に弱る。)
白萩 あれ、源さま。まだ言葉は聞こえるかいのう。源さま。源さま。
長順 (細く目を見開き)お鶴どのか。
白萩 (泣き伏しながら)あい、鶴ぢやわいのう。
長順 やよ、お鶴どの。四辺《あたり》に人は見えぬかいな。
白萩 (四下を見廻して)いやいや、誰も見えぬわいな。今宵は月も出ぬさうな。
長順 やよ、お鶴どの。もそつと近《ちか》う其方《そなた》の耳を貸しや。
白萩 あい。
長順 (言葉を改めて)やよ、鶴。昔|其方《そなた》に恋ひこがれた、あの時の心がいとしいわい、あの時あの恋がかなうたなら、何も不可思議は欲しうは無かつたのぢや。(長順瞑目す)
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門内の鐘声、小鐘声を以て終
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