何楽《しいうからく》。
長順 (傷に呻きながら後へより衆僧に呼びかく。)やよ、人々。などて、徒《いたづら》に古人の教に着《ちやく》しておぢやるのぢや。此不思議を見ざるか。この不可思議を。
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門内の悲しき楽音に交はりて小鐘声。
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所化等 諸衆等、当勤精進《たうきんせいしん》、如救頭燃《じよきうとうてん》、但念苦空《たんでんくこう》、無常勤慎《ぶしやうきんしん》、莫放逸《ばくはういつ》。
長順 (蹌踉《よろめ》きながら立ち上りて、南蛮寺の門扉に至り倚る。)おお、この不可思議に酔はいで、何の妙、実相がおぢやらうものか。心の底に生まるる赤児の声は、いつもこの不可思議にこがれて泣くのぢや。
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所化等のうち、或は首を回《めぐ》らして長順を顧るものあり。
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学頭 (所化等に)天魔波旬の誘惑《まどはし》に、方々は心を労すると見ゆるな。
長順 新なる不可思議の泉にあこがれて泣くのぢや。(倒る)
学頭 衆生無辺誓願度《しゆじ
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