礼 我等《わがら》は他国のものやほどに教へてくれいのう。
第一の童子 このお寺は唯のお寺ではあらない。
妹の順礼 唯のお寺や無いとて、坊様が住むお寺やろがな。
第一の童子 その坊様は真《まこと》の人間ではあらない。
妹の順礼 ほほ、真の人間で無いのやら、そんなら天狗《てんぐ》様かいのう。
第一の童子 いやいや、天狗《てんぐ》様でもあらない。もつと怪《け》しいものぢや。
妹の順礼 分つた。そんなら、そりや狸やろが。
第一の童子 狸でもおぢやらぬわい。
妹の順礼 お時どのよ。もう早《はや》う行かうよ。わしも奈何《どう》やら気味わるうなつて来た。
第一の童子 この寺の方丈様《はうぢやうさま》は、おらはまだ見ないが、皆《みんな》のいふて居ることにや、髪の毛が鼠の毛で、手の爪が熊の爪ぢや。
第二の童子 それで身の丈が一丈をも超えて、手の甲に鱗《こけら》が生えておぢやるさうぢや。
第一の童子 其くせ声は鳩のやうで、ぐはう、ぐはう、ぐはう、ぐはうと啼く稀有《けぶ》な方丈様ぢゃ。
[#ここから3字下げ]
日かげ傾く。南蛮寺の鐘鳴りはじむ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1
前へ
次へ
全44ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 杢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング