がし》がいふことが戯言《たはむれごと》であらうぞや。戯れごととはお許等《もとら》のいふことぢや。いとし、恋しも口の先、腹の内には舌出いて、いやさ(唄。)
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千たび百《もも》たびおしやるとも、なるまじものをうつつなの其方《そなた》や、われに主《ぬし》ある、思ひとまれよ。
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などと、はは、南蛮寺の玄関で、誰やらがよい歌唄うておぢやつたわ。
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白萩 あれまた人をなぶるわいなあ。
伊留満喜三郎 (再び門扉に倚りたるが、突然声高に)波羅葦増《はらいそ》ぢや、波羅葦増ぢや。
第三の人 真か、まことか。
伊留満喜三郎 じええずす[#「じええずす」に傍点]、まりや[#「まりや」に傍点]。波羅葦増雲《はらいそう》。波羅葦増雲。
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門内の楽声更に壮《さか》んになる。忽ち下手に人声。やがて嚮の老いたる男大なる槌《かけや》もちて出づ。
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老いたる男 此方にもする術《すべ》があるのぢや。
菊枝 やれやれ、爺《
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