くフロツクコオトの博士等に――是等の不可思議なる光景に吾等の脳髄が感ずる驚駭を以て自分等の趣味を満足して置かねばならぬ。
かう云ふ粗い対照なら東京の市街にいくらでも転つてゐる。現に此、銀座街頭の散策の間にも自分は出遇つたのであつた。そこは丁度地蔵さんの縁日だつた。道の両側には、折柄の菊の花売がカンテラの陰で白い花に水を灌いでゐた。盲目の三味線弾は自分の足場を一所懸命で捜して居た。ふと気付くと月の良い晩だ。而かも沛然たる一雨のあとで、煙草製造工場の屋根が銀碧の色に輝いて居た。工場の屋背にはまた半球形の円頂《ドオム》があつた。それが月の陰になつて暗い紫灰銀色の空気に沈んでゐる。この珍らしい光景をみると、自分は、一体どこの国へ来たんだい! と怒号つてやりたくなつた。
街道の舗石の上に一団の黒い人群が居る。街頭の謳者を行人が取り囲んだのであつた。
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※[#歌記号、1−3−28]高等女学校のスチユデント、
腰にはバンドの輝きて、
右手に持つはテキストブツク、
左手《かたて》にシルクアンブレラア、
髪にはバツタアフライ、ホワイトリボン……」
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