るかも知れない。
船の船唄も明かになる。それを唄ふ人の顏も讀めて來る。白い直衣の禰宜が渚に立つて遙拜する。忽ち四五十人の若者が裸體《はだか》になつて海に飛び込む。或人は神輿にかかる。他の人は一人一人鹿島踊の人を背に乘せて渚に運んでやる。それを肩に取る樣も異樣で、いきなり、ぐつと胸倉を掴んでかつぐ。すると背の人は枚を喞んで、幣束樂器の類を持つた左の手を前に突き出してよいよいと叫ぶ。暫時はよい、よい、そりや、と叫ぶ聲で渚がふさがる。小さい法螺の貝を持つ兒童までが同じ型をする。榊を外す、それを受取る。海の波に色々の彩文がうつる。既に渚に上つた子供は法蝶の貝を吹く。――それらの事が濟むと復踊が始まるのである。
船唄及び鹿島踊の事に關しては予は何の知識をも持つて居ない。二三の人にも尋ねて見たが分らなかつた。敢てそれを窮めようと云ふ氣もなかつたから其儘にした。唯予がこの種の人間活動に就いて愉快に感ずる所は、昔の人の生活が藝術的であつた事である。神社と云ふものがあり、その内の神を祭ると云ふので目的が神秘に化せられる。天平勝寶の昔に貴人より庶民に至るまで、形にせられたる人心の象徴たる大佛に禮拜した
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